「俺は、王様になるんだ」 「何言ってるんだよ。王様になんてなれるわけないんだぞ」 「え〜でも、王様って自分の好きなこと何でも出来るじゃん。俺なりたい」 「馬鹿。王様になれるのは、王子様だけなんだ」 「なんだ〜、つまらないなぁ。じゃあ、王子様にはなれるかな?」 「なれないよ」 「ちぇっ」 漸く待ち望んだ春の光の下。 街の片隅にある広場の草の上に、数人の少年達が集まっていた。 将来の夢。 誰が言い出したのかは分からないが、それぞれに抱いてる憧憬を楽しげに話す姿は、付近を通る大人達から見ても微笑ましいようで、彼らも一様に笑顔で通り過ぎていった。 「おまえは?」 一人の少年が、ちょっと眠そうに欠伸をしていた少年に問いかける。途端に、眠そうにしていたのが嘘のように、その少年の表情が変わり、大きな身振りで話し始めた。 「俺は、騎士になる!」 明るい日差しの中、陽の光に良く映える紅い髪が印象的な少年は、きらきらと輝いた瞳で宣言した。 「え〜、騎士〜? 色々大変なんだぞ。訓練もしなくちゃいけないし、戦争で死んじゃうかもしれないし、あんな重い鎧だって付けなくちゃいけないんだ」 街で見かけた騎士達は、一様に重そうな鎧を身につけ、剣を腰に差していた。また、戦争がある度に失われる命があることは、幼い少年達にも遠くない事実として認識されている。 絵空事ではない、現実だという事を。 だがしかし、少年の瞳から輝きは消えることなく、先の希望に満ち溢れていた。 「いいんだ。俺は前から決めてたんだ。絶対に騎士になる!」 「ふ〜ん……。じゃあ、まぁ頑張れよな」 あまり気のない友人の返事にも気付かず、少年は、高い空を見上げて強く頷いた。 「ああ。絶対になる。でさ、この国を守ってやるよ。だからおまえらも安心しろよな!」 「……おまえに守れられるなんて、なんかやだなぁ」 満面の笑みで高らかに宣言した少年は、友人のちょっと不満そうに顰めた顔を見て、ぷぅっと膨れて反論した。 「何でだよ!」 「だって、絶対に恩着せられそうだもん」 「うんうん、やりそうだな」 「僕、前にいじめっ子から助けて貰った時お菓子取られたよ。『これくらいくれてもいいよな』って」 「あ、いけないんだぞ、そういうことしちゃ」 友人達の思わぬ攻撃に、少年は真っ赤になって言い繕った。 「あ、あん時は……で、でも、ちゃんと半分ずつにしたじゃないか!」 「でもぉ……」 「悪かったよ!もうしないよ。でも……俺、あん時、母さんに怒られて昼飯抜きだったんだ。だから……」 しゅん、としながらそう言う少年に、思わず顔を見合わせた友人達は大声で笑い出した。 「あははは、そうか。おまえよく怒られてるもんな。昼飯抜きで暴れたから腹減ったんだろ?」 「そう。あいつら結構強かったしさ。でも、怪我なくて良かったよな」 助けた少年に、にかっと笑うと、その少年も笑って頷いた。 「うん、あの時はありがとう。おかげであれから何も言ってこないよ。本当はさ、お菓子も全部あげても良かったんだ。ちょっと言ってみただけ」 「おまえならきっと出来るよ。頑張れよな!」 最初『恩着せられそうだ』と言っていた少年も、何もなかったような顔で応援する。結局、この少年が誰よりも正義感が強い事は、仲間達全員の知るところであったから。 「へへ、サンキュ」 嬉しそうに照れ笑いをした少年は、空に向かって大きく手を広げた。 「俺さ、みんなが好きだから。みんながさ、ずっと幸せでいられるといいよな!」 そのまま草の上に寝転がった少年の紅い髪が、緑の草の上に散らばり、鮮やかなコントラストを作る。そんな少年をちらりと見やってから一様に空を見上げ、「うん」「そうだよな」と頷く少年達。 「あ〜…いい天気だなぁ」 誰にともなく呟いた少年を友人達が振り返った時、彼は既に気持ちよさそうな寝息を立てていた。 「騎士か……悪くないかもな」 「こいつだったら、本当に守ってくれそうだし」 「へへへ……楽しみだな」 春の柔らかな日差しと、気持ちよさそうに寝ている少年に誘われたのか、やがて全員が並んで寝転がり、静かな寝息を立て始めた。 まだ幼い少年達にとっては、夢は遠いものではない。 暖かい日差しの中。 それぞれが見る夢は、将来の自分の姿だったかもしれない。 十年後。 ハイランド王国の城門の前で、壮麗な城を見上げる青年が一人。 かつて夢を語った少年は、あの頃とは違う成長した体躯と類い希なる剣の腕を手に、やがて城門をくぐった。 変わらぬ紅い髪だけが、静かに風に揺れていた。 『俺、騎士になる!』 【 pure soul / 幻想水滸伝 】 |